平和そのものは、仮面をかぶった戦争である。
ドライデン(英,1631-1700)

 嗚呼。
 いつかは来るだろうと踏んでいたものが、とうとう来てしまった。
 しかも、最悪のカタチで。

 気分はさながら浮気現場を発見されてしまった人間のようだった。いや、さながらも何もまさにそんな気分だった。自分の身は正真正銘の潔白とは言え。「誤解よ!」という弁解は“彼”には通じなかったらしい。

「なんたる絶望! なんたる苦しみ! 悪夢だ!」
 両手で顔を覆って悲劇のヒロイン(あえてヒーローとは言わない)よろしく、己の絶望度合いを主張する“男”。そのまわりで、風が唸っている。カレッジの教室の窓硝子がガタガタと軋み、そこだけが得体の知れぬ亜空間が生まれているかのようだった。闇の間から透明の人影が現れては消え、現れては消える。誰かが絶望のあまり戦慄いている。それは“彼”の声なのか、それとも“彼”に同調した闇の精霊たちの叫び声なのか。
 どこかで見たことがある光景だ。そう、あれは、ソフィーが動く城に転がり込んでからまだ間もない頃。しかし、あのときの惨劇より、今日のこの荒れようはさらに上をいっているような気がするのはソフィーだけだろうか?
 闇の精霊の叫び声に混じって、カレッジ内にいる人間の恐怖の叫び声が聞こえる。隣に立つ友人2名は事態についていけず、茫然自失の状態で座り込むことさえできずにただただ立ち尽くしている。
 今、カレッジのなかで冷静に事態を飲み込んでいる人間といったら、きっとソフィーぐらいのものだろう。
 いっそ、目の前の彼と一緒に、癇癪でもなんでもおこしてやりたい気分のソフィーであった。


(ハウルの動く城,2005/03/12)(2006/01/01改)
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