マイケルが神妙な顔つきで話している間、終始ソフィーは頬を赤らめて俯いて学食のコーヒーの渦を見つめ、対してソフィーの親友というマリーウェザーは最初こそ真剣な表情だったが、途中からなにが可笑しかったのか、顔を真っ赤に高揚させて必死に笑いを堪えているようであった。
 こっちは真剣に話をしているというのに、とマイケルはマリーのあんまりな態度に、思わず顔をしかめる。
 「で?」 一通りの話を聞き終えて、マリーは頬杖をつきながらマイケルをじっと見据えた。
 そのマリーの顔は相変わらず満面の笑顔だが、もうよい。気になんてするものか。とりあえず、城の人間事情をソフィーにわかってもらえればそれでよいのだ。
 「我侭で自信過剰で、そのくせ極端に小心者で弱虫な旦那さんが愛する可愛い奥さんに構ってもらえなくて、マイケル君に当り散らしていると?」
 「端的に言えばそんなところかと」
 端的も何も、そのままだ。学食の安いコーヒーを片手に、マイケルはほとほと困り果てましたと言わんばかりに大きく息をつく。
 「まあ、マイケル君にしちゃたまったものではないわよね」
 「でしょう!?そうでしょう、マリーさん!!」
 椅子から立ち上がって、ドンと机を拳でたたきつけてしまうほどマイケルの興奮状態は、存外高いようだ。それだけマイケルがハウルの癇癪につきあわされてストレスがたまっているということだろう。いつもの温厚なマイケルを知っているだけに、ソフィーの驚きは人一倍だった。
 「まぁまぁ、マイケル君。落ち着きなさい。あんたの気持ちはよくわかったから」
 ね?ソフィー、あんたもわかるでしょう?と、横に座るソフィ=ハッターに目をやれば、彼女は至極ばつが悪そうに項垂れていた。
 「………ごめんなさい、マイケル。あたし、ちっとも気付かなかったわ」
 ごめんなさい。さらに項垂れるソフィーを見て、マイケルもはたと正気に戻ったかのように、急に大人しく椅子に納まった。
 「え、えっと………」 しまった。言い過ぎた。そう思いつつ、マイケルはソフィーを励ますべく必死に言葉を探す。 「え、えと、あの。ま、まあ今回は、ハウルさんもソフィーさんに、自分の苛々を気取られないようにしてましたから…」
 え?とソフィーが顔をあげた。 「ハウルが?」
 何かと自己主張をするあのハウルが? さも意外だと言わんばかりに、ソフィーは目を見開く。
 「ほ、ほら!ソフィーさん、最近レポートだなんだとすっごく忙しそうだったじゃないですか!」
 レポートとその資料と格闘しつつも、城のなかのことも普段どおりきっちりこなしていたソフィーの睡眠時間は果たしてどれくらいのものであったのか。もちろん、マイケルとてできるだけソフィーの手伝いをしてきたかが、それにしたってソフィーの仕事の量は半端ではなかったはずだ。もともと妥協というものを許さない、もとい、許せない人であるから、ソフィーの仕事量は専業主婦であった時代から見ても、決して減ることはなかった。むしろ、学生という身分にあまえないように、さらに自分にノルマをかけて、一層彼女の城内での仕事は増えていたようにさえ見えた。
 「カレッジのことで色々忙しそうにしてたソフィーさんに、流石のハウルさんもあまり我侭を言えなかったんだと思います」
 学生生活の忙しさは、ハウルもよく知っているはずだ。そして、ソフィーのような真面目を絵に描いた人間の学生生活は、てきとうに手を抜いて遊びまわる学生の倍も忙しいことも、ハウルはわかっているはず。
 わかっていたからこそ、言えなくて。きっとそのぶんだけ、苛々は倍増していたことだろう。
 「可愛いじゃない、その旦那」
 くすくすと笑うマリーに、ソフィーは苦笑いでこたえた。
 「あんたよっぽど愛されてるのねぇー」
 「ええ、ハウルさんはソフィーさんが大好きで大好きで仕方がないんです」
 しみじみと呟いたマリーに、マイケルは胸をはって言った。ジェンキンス夫妻が巻き起こす騒動に巻き込まれては文句をたれつつも、結局マイケルも彼らの関係に少なからず憧れらしき感情を抱いているらしい。まるで自分のことのように自慢げに胸をはる様は、端から見て、どこか可愛らしかった。
 「いいわねぇー憧れるわ」
 「ちょっとやめてちょうだいよ、二人とも」
 たまらず、ソフィーは眉間に皺を寄せる。恥ずかしいじゃないの、とコーヒーに口をつけるソフィーの頬は林檎のように赤い。まんざらでもないのは明らかなのだが。
 「兎に角ですね、ソフィーさん。大学に行くななんて言いませんから、少しはハウルさんのことを構ってあげてください」
 じゃない、とぼくの命すら危ぶまれるんですから。
 「わかったわ」
 ソフィーの前向きな返答にマイケルは心底ほっとしたように胸を撫で下ろすのであった。


(ハウルの動く城,2005/02/24)(2006/01/01改)
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