動く城の主人のご機嫌バロメーターの値が、大変よろしくない。その度合いといったら、洒落にならないほどだった。
そして特にマイケルとカルシファーにとって、それは大変忌々しき事態だった。主人の機嫌が悪いことによって、何かと害を被る羽目になるのは、彼らなのだから。彼らにしてみればたまったものではない。
機嫌が悪くなると何故かすぐに風呂に入りたがる城の主人のために付き合わされて、風呂沸かしの役を担うカルシファーは、毎日がへとへとだった。いくら火の悪魔だからといって、大きな城を動かしがてら、毎日毎日風呂を日に二度も三度も沸かせば、疲労困憊になるというものだ。
城の主人に魔法の教えを請うているマイケルへの被害も、また凄まじかった。大量の宿題を課せられたり、わけのわからない暗号を解読させられたり、明らかに許容範囲外の魔法を無理やり頭に叩き込まれたり、魔法実演と称して師匠お得意の雷魔法をくらう羽目になったり。マイケルも、カルシファー同様毎日がへとへとだった。へとへとと言うべきか、むしろそんなレベルを通り越してもはや死と隣り合わせの“毎日がサバイバル状態”だった。
「ここはもうソフィーさんに何とかしてもらうしかないと思うんです。というかあの人がするべきです」
憔悴しきって目元に黒々としたくまをたたえながら、マイケルはどんとテーブルをたたく。
「そうだよ。それが筋ってもんだよな」
「ええ、そうですとも」
城の主人の妻であるソフィーが、旦那の機嫌をなだめて何が悪い。彼女に旦那をなだめるよう頼むことの何が悪い。妻としての義務を果たせと申し出て何が悪い。そもそも、あの気分屋で我侭で無駄に自信過剰で無駄に小心者の主人の機嫌が損ねるに至った最大の原因は、ソフィーにあるのだから。自分の落し前くらい自分でつけて頂こうじゃないか。
「ソフィーさんには、何としてもどうにかしていただきます」
ふだんの温厚そうな表情はどこえやら。マイケルはどこかの火の悪魔よりもよっぽど悪魔らしい顔をして、ばんと黄色の扉を開いた。
向かう先は。―――――ソフィーの通うカレッジだ。
(ハウルの動く城,2005/02/21)(2006/01/01改)
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