202×年4月5日 モスクワ視察
十代目護衛候補者一覧

リボーン ×(休暇中)
笹川了平 ×(メキシコ出張中)
ランボ 論外
獄寺隼人 ×(ラスベガス出張4月2日より5日間)
山本武 ×(入院中)
六道骸 ◎(自薦他薦)
雲雀恭弥 △(棄権)


 配られたコピー用紙にざっと目を通したところで、綱吉はひくりと頬を引き攣らせた。なんじゃあこりゃあと書類や電気スタンドごと、デスクをひっくり返そうとして、ところがデスクが上からしっかりと押さえられていることに気づいて、綱吉は顔をあげた。
 雲雀恭弥が酷薄な笑みを浮かべて、そこにいた。綱吉のデスクを腕一本で床に押さえつけながら。


番外編



「六道で決まりだね」
 雲雀はさも当然と云わんばかりに結論を出した。
「わー沢田くん、僕しっかりあなたを危険からお守りいたしますネー夜も一緒のお布団で寝ましょうネー」
 頬を染めてくねくねと腰をくねらせる骸を蹴り上げて、綱吉はただひとりで異議を申し立てた。必死の形相だった。
「ちょちょっとちょっとコレおかしくない? ねえ、おかしくなぁーい!? ねえ、ヒバリさぁん! そもそもあなたの“棄権”って何んですか? 職務放棄ですか!?」
 綱吉は半泣きで雲雀のジャケットに縋りつくのだが、しかし雲雀の態度はあくまでそっけない。それどころか、雲雀は綱吉の悲痛の叫びにも似た異議を黙殺して、むんずと綱吉の身体を摘み上げ、同僚にむかって放り投げた。
「やあ、沢田くん! いらっしゃーい」
 呆然としている綱吉の身体を、骸は満面の笑顔でもって抱きとめて、これぞチャンスと云わんばかりに綱吉のぷくぷくとした頬に己のそれを摺り寄せる。ひゃあああ!と奇声をあげる綱吉に、骸はアハッと一層腕に力を込めた。
「ちょとー! ヒバリさぁん、そこで見ないふりしないでくださいよっ。ここは助けるところでしょーよ。僕のツナヨシに手を出すなこの人外魔境! くらい言ってみても罰はあたらないと思いますよぉぉう。つか髭ッ、骸、髭が当たってる! あんた朝ちゃんと剃った!?」
「――で、モスクワ行きのチケットだけど、ふたり分、もうおさえてあるから」
「ははあ、流石、雲雀恭弥くん。お仕事が速くていらっしゃる。頑張りやさんな君におひとつチュウをプレゼントしてあげましょうかね?」
「結構」
 雲雀はすかさずトンファを構えて臨戦態勢に入る。びりびりと肌を焦がすような雲雀の殺気に、しかし骸はちっともこたえた様子がない。それどころか、にこにこと一層笑みを深くして、クフフと怪しい声をたててみせた。
 最近、ボンゴレファミリーの仲間内で実しやかに噂されていることがある。曰く、狂犬雲雀恭弥とパイナップルマジシャン六道骸が仲良しであるという――。
(仲良しっていうか、骸が一方的にヒバリさんにちょっかい出しているだけというか……)
 むしろそれは嫌がらせの域だ。
 綱吉はぞぞぞと背筋を凍らせ、ようやっと悟った。つまり、雲雀は綱吉に護衛という役をもって骸を押し付けたのだ。ひどい、ひどすぎる。
「ヒバリさんの馬鹿ぁぁ! 離婚ですー! 指輪を返せこの野郎!!」
「ごめんね、サワダ」
 ちっとも心の篭っていない雲雀の謝罪に綱吉はさめざめと泣き、骸がそんな綱吉をいやらしい手つきで抱きしめた。
「あららららら、可愛そうに、沢田くん。あんな人でなしなんて放っておいて、僕達はモスクワでランデブーしま……」
 どぴゅんと飛んできたトンファを器用に避けて、骸は、あら残念、もうちょっとで沢田くんのほっぺにチュウが出来そうでしたのに、とちっとも残念そうには思えない声で言った。
「ソレに変なことを強要してごらん。噛み殺してあげるから」
 ヒバリさぁん。噛み殺さなくていいから、とりあえず今すぐにでも、この場から、俺を助けてください。そもそもあなたが安易に俺を骸なんかに投げたりするから……!! 綱吉は歯軋りする。
「あのー……というか、これ、俺の“論外”ってどういうことでしょうか?」
 兄さんたちの険悪な雰囲気に気圧されながらも果敢にも挙手したランボは、しかし、綱吉には目を背けられ、雲雀には冷ややかに見下され、骸には「牛なんぞに沢田くんの護衛が勤まるものですか」と真顔で貶されて、ぼろぼろと涙を流した。


が・ま・ん!

リボーン|070503