星の目合い
言葉なく、頬に自分のそれを寄せてくるセーウに、カグヤはこっそりと笑った。
ついこの間まで人に触れることも、触れられることも出来なかった青年が、カグヤの輪郭すべてを、たどたどしくもなぞるように身体を寄せてくるのだから、不思議な感じだ。
おっかなびっくり触れ、セーウはカグヤの反応のひとつひとつに怯えて、喜んで。そんな彼の感情の機微が、触れ合う肌と肌を通してありありと伝わってくる。心が染み込んでくるようだ。それはとても不思議だけれど、同時にとてもとても自然なことにも思えた。
誰が彼を人形だなんて言っていたかしら。誰が彼を狂った男などと。
唇を寄せ合うことの意味。手を握ることの大切さ。こんなにも人らしい営みをカグヤに教えてくれたのは、セーウの他にいない。
目を閉じて、その低い体温に身を任せる。ここが自分の場所なのだとカグヤは確かに思える。
こんなとき、ふいに激動の日々を思い出す。時空を超え、何かに引き寄せられるように出会い、心を交し合い、そうしてカグヤの横を彗星のように通り過ぎて行った人々がいた。失ったもの、失っていたと後から気づいたもの、二度と戻らないもの。それらが悲しくないと言えば嘘になるけれど、それでも、あの目まぐるしい日々を生きてよかった。セーウを知ったのも、そんな路の途中だった。
空を見上げれば、星々はいつだってそこで輝いている。
戦場を駆け抜けた夜も、死者をに祈りを奉げた夜明けも、そうして今も、星々は変わらずただ静かに輝き続ける。
あのきらりきらりと輝く星々の下、ずっとずっとセーウとふたり、寄り添っていけたらと思う。きっとそんな未来がカグヤたちを待っている。
プラネット・ラダー|080810