「うぅ……お、俺、出家しようかなぁ……ぐす……」
奇天烈でお騒がせな部下たち(というか某幹部たち)の尻拭いのために、日々上から下から北から南へ東を回って西へと奔走し続ける若きボンゴレは、処理しても処理しても湧いて出てくる大量の始末書を涙ながらに見やった。
「法王にでもなりますか」
幸いヴァチカンはすぐ其処ですよ、と人好きのする笑顔でバジルは言うのだけれど、ボンゴレは最近“人の笑顔ほど信用できないものはない”ということを学びつつあったので……。
「あ、十代目。こちらにもご署名お願いしますね」
ほら来た、とボンゴレは歯を食い縛って、涙を拭った。大切な書類を潮水で濡らしてしまってはいけないのだ。
嗚呼、これじゃあ法王どころか、まるで囚人と同じだよ。せっかくの休日の予定がもうすべてぱあだ。こんなによい天気なのに、辛気臭い執務室に閉じ込められて、最悪だ。もう本当に最低最悪だ。本気の本気であの人たちに向かってトンファーや刀を振り回したい。銃を乱射したい。拳を叩き込みたい。バズーカをぶっ放したい。爆弾を投げつけてやりたい。あの人たちを、本気で呪ってやりたい。
大丈夫だよ、死体は丁寧に葬ってあげるから。お祈りだって毎日欠かさない。この始末書の処理に比べれば、毎日のお祈りだって何のその。祈って見せましょうぞ、あの人たちが二度と生き返らないように。だってあの人たち、殺したって殺せなさそうだから、埋葬だけは厳重に。
「魂だけになっても現れたりして……」
「はい?」
「……なんでもない。あ、署名だけ? 血判はいらない? ――うーんヴァチカンねぇ……? なんかありきたりじゃない?」
「ご署名だけで結構です。――ローマ=カトリックの総本山をありきたりだとおっしゃいますか」
「血判のほうが楽なんだよねぇ。ちょっと痛いけど。それに俺、字ぃ汚いからサインじゃ格好つかないし。 ――アディス・アババとかどう?」
「おや、わざわざエチオピアに飛びますか? ――そうそう、血判で思い出したんですけど、十代目は最近流血沙汰に巻き込まれすぎてるので肉類をきちんと摂取するようにとドクターが言ってましたよ」
「肉? 肉はもういい。もう沢山だ。俺はね、もっと静かに穏やかに暮らしたいんだ。パンとワインさえあればいいよ。質素でいいんだ。あ、でもやっぱりごはんと緑茶のほうがいいかな。とにかくヴァチカンなんて派手すぎるし、何よりここから近すぎるじゃないか」
「ようは仕事を放棄なさりたいと?」
「休暇が欲しい……。ひとりきりの静かな休暇……一日で……いや一時間でいい」
「バカンスですか」
「バカンスっていうか、精神療養です。もう何なの、うちの暴れん坊たちは……、次から次へと!」
「甘えたさんばかりですからねぇ」
「もう! 母さんからも何か言ってよ!」
頓珍漢な言葉を喚き散らし、ボンゴレはさめざめと泣く。そんなボンゴレの肩を叩いて、バジルはいっそ晴れやかに笑ってのけた。
「だって、お父さんが一番あの子たちを甘やかしてるじゃないですか」

070210/リボーン