やれ、降ろしやがれ。やれ、放さないとぶっとばすぞ。挙句の果てには「このド変態鬼畜眼鏡野郎!」と罵倒されたのでは、ジェイドとしても納得がいかないものがある。何せ、精神年齢が著しく低いくせに図体だけは立派な成人男性――ルークの身体をひとつ、ジェイドは腕に抱えているのだ。重いお荷物を抱えて、さらにそのお荷物に罵られるだなんて、これほど割に合わないことはない。
「そういえば、ルーク。これって実は俗に言うお姫様抱っこというものですよねぇ」
誰がお姫様だ!と肩を怒らせるルークを、いい加減になさいと諌めたのは、それまでルークたちの様子を眉をひそめながらも黙って見守っていたティアだった。
「ルーク、倒れた人間がそんなに暴れるものじゃないわ。こどもじゃないんだから、おとなしくなさい」
ルークとしては、ジェイドに文句をまだまだ言い足りない。が、想いを寄せる少女にそう言われてしまえば、ルークとて口を噤まないわけにはいかなかった。
むむむと眉間に皺を寄せて、いかにも納得がいってませんといった風のルークを見下ろしながら、ジェイドは口端をくっとあげた。
「そうですよ、ルーク。ティアの言うとおりです。まったく、そんなに怒っては憤死してしまいますよ?」
「誰のせいだ誰の!」
ふたたびはじまったルークとジェイドのやり取りに、もはやこれ以上の口出しは意味がない、とティアは明後日の方向を見た。まあルークもこれだけ騒げるのなら、別段問題ないだろう。つい先ほど、レプリカ研究の実験中にルークが倒れたときは、生きた心地がしなかったけれど。
「だいたいなー野郎に担がれて喜ぶ男がいるか!」
「おや、なら野郎じゃなければ、よいんですか? ――ティア」
「は、はい」
突然話をふられて驚いているティアに、ジェイドはにこりと笑いかけてみせた。
「ルークはティアに抱っこしてもらいたいようですよ。いやあ、ルークは本当に甘えたさんですねぇ」
「は?」
ティアは言葉を理解しきれず、ジェイドに抱き上げられたままのルークは口を開けたまま固まった。そろそろと視線を合わせたふたりは、半ば呆然とお互いの顔を見つめあい、ややあって顔を真っ赤に染め上げた。
おやおやおや。若いことの、なんとすばらしいこと。ジェイドは至極満足げに笑う。
「っば、馬鹿野郎! ジェイド、てめぇ、妙なこと言うな! そもそもこんな細っこい女に男を持ち上げられるか!」
「な、なによ、ルーク! 私だってちゃんと毎日身体を鍛えてて……っ!」
「そういうもんじゃねぇだろっ」
「先に言い出したのはそっちのほうじゃないの!」
うんうんうん。若い。若い。やはり満足げなジェイドに、お若いふたりは気づかない。見てもいない。
「大佐! ルークを私に貸してください!」
「おや」
「ティア、何すん……ってジェイド放すな! 降ろすな!」
「見てなさい、ルーク、私だって人間のひとりやふたりくらいっ」
「持ち上げられなくていいから!!」

070312/アビス