「世界が俺を呼んでいるのだ」
一昔前の少年漫画の主人公のような青臭い台詞を叫びながら、少女漫画さながらのきらきらの瞳をたたえて、ふたりの愛息子が家を飛び出していったのは、つい一昨日のことだ。
「いったい誰に似たんだかねえ……」
感慨深げに呟いて、コーヒーをすする旦那を横目に見ながら、キョーコは眉をしかめる。
誰に似たか、だと? それを私に聞くか? それじゃまるで遠まわしな嫌味だ。いやいやいや。遠まわしに見せかけて、実はあからさまな皮肉だ。なんとまあ嫌味な男!
「……あなたじゃないですかね?」
「君じゃないのかな?」
「私はあんな青臭い台詞は言いませんよ。聞いてるほうが恥ずかしかったですよ、まったく」
「あのね、俺もいくら演技だってあんな乙女な顔はしません」
「……」
「……」
ふぅとお互いに嘆息をこぼし合って、キョーコとその旦那は瞑目した。
――我が息子ながら、何とも……。否、自分たちの息子だからこそ、というべきなのか??
「まあ、あの子が世界征服でもして戻ってきたら誉めてあげましょ」
「そうだね」
070208/スキビ