最後の一音が完全に空気に溶け込んで消えた後、二人してフローリングに仰向けで倒れこんだ。数十分に及ぶピアノ連弾は、根こそぎ体力を奪っていってしまって、体を動かすことは愚か、呼吸さえ億劫になるほどだ。
互いの荒い息遣いを聞きながら、二人は無言でよく見知った天井を仰いでいた。
冷めやらぬ興奮。体中の細胞が騒いでいる。これだから、音楽は止められない。
やっと呼吸が落ち着いてきたところで、真一はのろのろと首をまわして、隣で同じように寝そべっている恵のほうを見た。恵もまた、真一に視線を向けていた。にへら、と頬をゆるゆるに緩めながら。
「幸せデスー」
「そりゃ、よかったな」
そっけない言葉をかければ、恵は不満そうに頬をふくらませた。
「なんデスか。人事みたいに。センパイも幸せそうな顔してますよー」
「そうかよ」
「そうですヨ。のだめも幸せそうな顔してるでショ?」
「ああ、シマリのなってない顔してる」
「むきー!」
あんまりな言い草に腹をたてて反射的に体を起こし、恵は真一に圧し掛かった。
「何てことを……」
―――言うんデスか。酷いじゃないデスか。―――と言う恵の真一への抗議の言葉は、結局声として最後まで成立することなく。
「……ふ、不意打ちデス……」
センパイは卑怯デスよ。唇に残るやわらかな感触に頬を染めながら、恵はぶつくさ文句を言う。
そんな彼女の皺のよった眉間に、もう一度、唇を寄せてやれば、彼女はもう参りましたとばかりに真一の胸に顔を埋めた。
「………ふぉぉー……のだめ、幸せデスー……」


050211