「貴様に永遠の命をくれてやろうか」
瞠目する弥子に、ネウロは薄い笑みを浮かべて(ネウロがこういう中途半端な笑みを浮かべるのはひじょうに珍しい。ネウロの笑顔といえば、だいたいにして芝居がかった胡散臭いものか、獣のような残忍なものというのが常だった。)云った。
曰く、永遠の命とはいえども、あくまで術者の命と連動するものなのだそうだ。
呆ける弥子の発育不全の薄い胸には、ネウロの鋭利な指先が突き付けられている。例えば、ネウロがほんの少しの出来心で力をそこにかければ、たちまちその鋭利な指先はいとも容易く弥子の血肉を突き破り、その下の心の臓を捕らえてみせるだろうことを、弥子は知っていた。
「聴こえなかったか? 豆腐」
嘲笑するネウロに、何か云い返してやろうとして、弥子は止めた。
恐怖はない。そんな感情はとっくの昔に麻痺してしまった。只、眼前に立ちはだかる魔人の真意が全くもって読めない。
変だ、と弥子は思った。変だ。変だ。
(だって―――だって、)
ネウロのどろどろと濁った深緑の双眸が真剣な光を湛えているのだ。
「……あんたが死んだら、あたしは死ぬの?」
「いかにも」
「あたしが死んだら?」
「そう簡単に死なせてなどやらぬ」 云いながら、ネウロはその指先で、弥子のブラウスに小さな穴を開けた。
はは、と弥子は笑った。泣きそうだ、と思った。実際、眦には薄らと涙が溜まっていたのだ。
生涯を化け物とともに歩めと?(しかも、ネウロときたら、珍しくも弥子の意思を問うてきたのだ!)
これでは、まるで。
(プロポーズみたいじゃないの……)
少なくとも、人間の世界でのプロポーズは(魔界では結婚という概念そのものがあるのかすら、弥子は知らないが)、求婚者の急所を押さえながらするようなものではない。しかし皮肉にも、ネウロのその急所を押さえる様が、まるで「貴様は我が輩のものだ」とでも無言で主張しているかのようで。
(嗚呼……)
「ヤコ?」
――如何する?
ぷつり、と肉が小さく裂ける音ともに、弥子のブラウスに赤い染みが広がる。
これは支配欲か、所有欲か。或いは他者を甚振ることに悦楽を覚える化け物故の本性か。残虐で、そのくせ真摯な深緑を見つめ、弥子は静かに涙を流した。
嗚呼、これが魔人の愛だったというのなら。嗚呼、何て。

月の砂漠でラブソング 060913