桃色フラミンゴ



『ポチタマ』を観ながら号泣している女の名前を最上キョーコと言う。
トイレットペーパーをくるくるに巻いて徐に差し出せば、それを手にとって、ちーん、と……。
ちーん。
と。いっそ清々しいまでに堂々と鼻をかむ。
「すごい顔」 嗚呼、酷い顔。およそ女優らしからぬ醜態だ。
「だって、パトラッシュが……ぐす」
「ゴンタくん、でしょう?」
アルプスに住む少女の名前が皆ハイジではないのと同じように、世の中のフランダース犬の名前が皆パトラッシュであるとは限らない。
「だってパトラッシュってば、大好きなご主人様を待ち続けて待ち続けて」
「だから、パトラッシュじゃなくて……」
「待って待って待って、とにかく待ち続けて」
「ゴンタ……」
ぐぐっと握りこぶしを作る彼女は、人の言うことをちっとも聞いてやしない。
「捨てられたってことにも気づかないで。馬鹿じゃないの……本当に馬鹿ですよ、ぐす」
ねえ。 「感情移入が激しすぎるんじゃないの」
「そりゃあ感情移入もしますよ。だってパトラッシュかわいそうすぎるんですもの」
「そうじゃなくて」 そういう意味ではなくて。
そしてまた彼女はちーんと鼻をひとかみする。
「……」
「……」
正直に言えば、彼女の異常な感情移入の仕方を見ていると、少しおもしろくないのだけれど。いや、大変おもしろくないのだけれど。大人の男はここで耐えてみせるもの。
「……まあ、ゴンタには新しい素敵なご主人様が出来たわけだし」
嗚呼、酷い顔。鼻の下は真っ赤。
「あのご主人様ならゴンタくんは幸せになれるよ」
「なれますかね」
「なれるよ」
お気楽なエンディングテーマ曲が流れる中、ちーん、ともう一発。またトイレットペーパーをくるくる巻いて、今度は俺自ら彼女の涙と鼻水をふき取ってやる。心中、大変おもしろくないから、ちょっと乱暴に拭ってやった。
「いたい。いたいってば敦賀さん!!」
「なれるよ」
鼻をトナカイみたいに真っ赤にさせている女の名前を最上キョーコという。
「君は幸せになれるよ」
そして最上キョーコは顔をくしゃくしゃに歪める。真っ赤なそれは、涙を必死に堪えている顔だった(今更堪えたってどうしようもないのにね)。

スキップ・ビート!|title by フィスティーン !|060606初出