恋愛百戦錬磨だと思っていた、蓮が、実は恋愛音痴だと判明して、早4年。ワタクシ、社倖一(29)は蓮のマネージャーとして、蓮の無自覚の恋を見守ってきました。
何故でしょう。何故なんだ、蓮。何故気付かないの?
いい加減に自覚したらどうですか?
横で俺は毎日ハラハラドキドキしています。頼むから、とっとと自覚して、キョーコちゃんとくっ付いちゃってくれ。(もちろんマスコミにはバレナイように宜しく)
「それ、キョーコちゃんの特集が載っている雑誌?」
木陰で座り込んでいた蓮に近づいて、俺は話しかけた。
ドラマのロケ撮影が一段落して、休憩中の蓮が今手にしているものは、今月発売された某有名雑誌だった。表紙を飾るのは、タレント京子。つまり最上キョーコちゃん。雑誌の内容もキョーコちゃんの特集がくまれていて、綺麗に着飾った彼女の写真やら、対談の様子やらが多数掲載されている。
「あ、あぁ、スタッフの人が持ってて、ちょっと借りたんです」
蓮はそう言って、曖昧に笑う。
「そうなんだ」
ドラマ撮影の休憩中に、蓮が台本以外のものに目を通していることは珍しい。俺が蓮付きのマネージャーになって、もうずいぶん経つけど、こんなことはほとんどなかった。仕事熱心なヤツだから、こういった休憩中でも、次の仕事の台本をきっちり覚えなおしていたりするのが普通なのに。
キョーコちゃんが特集だったから、読んでいるんだよね。うん、きっとそうに違いない。彼女が気になるんだよな、蓮? そうだよな?
それなのに、なんでお前は気付かないの。自分がキョーコちゃんのことを好きだってことに。
パラパラとページをめくっている蓮の横から、俺も雑誌を覗かせてもらう。ふと、蓮の手が止まった。
「へ〜、キョーコちゃん綺麗だね」
そこには、細身のシルエットの白いワンピースを着たキョーコちゃんが写し出されていた。はにかむように笑う彼女は、誰が見ても綺麗だと思う。もちろん、雑誌を手に持ったまま固まっている隣の男も例外ではないはず。信じられないものでも見たかのように、蓮の目は雑誌のなかで微笑むキョーコちゃんに釘付けだ。
「蓮?どうかした?」
どうかしたも何も、蓮が彼女に見とれているのは一目瞭然なんだけど、蓮が本当に固まったまま動かないから、少し心配になって声をかけてやった。
「え?あ、いえ別に」
……別に、じゃないでしょう
「キョーコちゃん綺麗になったよねぇ」 と、俺が言えば、
「そうですか?メイクのおかげじゃないかな。目の錯覚ですよ、社さん」 さらりと、酷い事を言う蓮。
……素直じゃない。素直じゃないぞ、蓮。お前は、確かに今雑誌のキョーコちゃんに見とれていただろう!?なのに何でそんなこと言うんだい?
「錯覚って…………。蓮は本当にキョーコちゃんに厳しいよね」
「そうですかね? 俺は事務所の先輩として普通に接しているツモリですけど?」
どこが普通だ。あんなにアカラサマにチョッカイ出しておいて。
俺は知っているぞ、お前がどうしてキョーコちゃんに対してあんな行動にでるのか。お前は、好きな子ほど苛めたくなっちゃうタイプだろ。それがまた無自覚なんだよね。まったく、いまどきの中学生…いや、小学生だって、せめて自分の気持ちぐらい分かった上で、好きな子を苛めていると俺は思うよ。
蓮は、本当に恋に関しては小学生以下、幼稚園生並みだ。
「先輩としてねぇ………。どっちにしろ、仲良いよね、蓮とキョーコちゃんって」
「そうですか?」 蓮ははて?と首を傾げる。
「そう思うよ」
だいたい蓮は基本的に、あんまり人と付き合わない。誰にでも友好的なヤツだけど、それはあくまで表面的なことで、実際の蓮は人を自分にあまり寄せ付けない。広く浅く、ソレが蓮の他人との付き合い方。
そんな蓮が唯一、自ら近づいて、かまっているのがキョーコちゃんだ。キョーコちゃんと話しているときの蓮の表情は、傍から見ていても驚くくらい優しい。口ではどんなにキツイことを言っても、キョーコちゃんに注がれる蓮の視線は包み込むような暖かさを持っていて。横でいつも蓮たちを見ている俺にはいやというほど、蓮のキョーコちゃんに対する気持ちが伝わってくるのに、キョーコちゃんはもちろん、蓮本人ですらそのことに気付いていない。気付こうともしない。
こんな調子で、いつのまにか4年も経ってしまった。この若い男女が晴れて恋人同士になる日など本当にやってくるのだろうか。心配で、心配で仕方がない。
「あのさ、もしもの話なんだけど」
こうなったら、こちらから、その手の話題をふるしかないでしょう。
「なんですか?」
「もし、キョーコちゃんに恋人が出来たらどうする?」
「あの子に恋人?」
お、眉間に皺がよってるぞ!蓮!そのまま自覚とかしないかな?
「……それは、マズイデスネ」
おお!!!蓮!!お前もついに、ついに!!
「り……理由を聞いてもいいかな?」
それは、蓮がキョーコちゃんのことを好きだから!!だよな?そうだよな? っていうか、そう言ってください。
「あの子変な男に騙されそうですし」
「は?」
期待した答えとはかけ離れた、蓮の返答に、俺はなんとも間抜けな声を発してしまった。
「だって、あの子、妙に素直でお人よしで単純だから。きっと変な男に捕まりますよ」
「つまり、蓮はキョーコちゃんのことを心配しているんだね?」
そうなんだね?………なんとかしていい方向に考えを持っていこうとする俺もどうかと思うけど、兎に角蓮には幸せになってもらいたいんだよ!マネージャーとして。
「そりゃ、社さんも心配でしょ?」
「え?あ……まぁ」
ええ、心配ですよ。俺にとって、キョーコちゃんは妹みたいなものだから。あの溌剌とした笑顔を向けられると、思わず彼女の頭を撫でてあげたくなっちゃうんだよ。
「もし、彼女に恋人が出来たら、取り敢えずその男に会って、品定めをします。心配ですし。で、合格だったら付き合ってもよし。不合格なら速攻で別れさせます」
おい、それじゃまるでお前は…………
「妹をもつ兄ってこんな感覚ですかね?」 フフと笑う蓮。
アホか――――――――――――!!!
なんでそういう発想になるんだ!?どうしてなんだ!!(それにそれは、兄っていうより、父親の感覚じゃないの?)
この恋愛音痴め!!俺は心の中で、思いっきり蓮をなじらずにはいられなかった。っていうか、お前のお眼鏡にかなう男なんてこの世に存在するのか?
蓮がキョーコちゃんを好いているのは、明らかで。蓮の視線がキョーコちゃんの姿を追っているのも、当たり前のことで。蓮がキョーコちゃんにチョッカイ出して、二人でじゃれあってる様子も、当たり前のように見られることで。
なのに、何でお前は気付かないんだ?
蓮、お前のようなヤツを、世の人は『恋愛音痴』と呼ぶのだよ。
(スキップ・ビート!,2003)(2006/01/02改)