今日は本当に久々のOFFで、しかも我が心の友モー子さんもOFFで珍しくOFFが重なったから、一緒に映画でも観に行こうって話になって。楽しみにしてたのに。前日から、洋服も決めて、スキンケアもしっかりして、まるでデートにでも行くかのように超〜気合入れてたのに、何で? 何でなのよ、モー子さん!!
手元の携帯を見れば。
受信メール 001 ●月○日 10:37 琴南奏江 no title ゴメン、急に仕事が入った!
ていうか、一言ですか、モー子さん! タイトルも無しって……そんな!!
仔ウサギと仔キツネの休日
-逃避行後日談-
「で、なんで俺が呼ばれなきゃいけね〜んだよ」
「うっさい、だまらっしゃい、松太郎のくせに」
「テメェ」
駅前の噴水で座っていた、私の前に不機嫌度200%という顔をした、松太郎が現れた。何を隠そう私が、呼んだのだけど。まぁまぁ、帽子なんか被っちゃって、サングラスも?まるで芸能人気取りね。いや、芸能人なんだけどさ。
この私の前で不機嫌そうに立っている男、名前を不破松太郎という。ただし、松太郎というのがあまりにも間抜けな名前だ(すみません全国の松太郎さん)とのことで、不破尚という芸名を使用している、唯今人気絶好調の歌手。用心には用心をと、その間抜けな本名は彼の所属する事務所のメインコンピューターにすら入れていないらしい。そんな彼のトップシークレットとでも言うべき本名を、何故私が知っているかというと、私と松太郎は幼馴染だったりするのだ。
松太郎の売りは、歌唱力とクールなルックス。そのクールさの中に見え隠れする、少年っぽさが堪らないのだと、世の美青年好きのお姉さま方に絶大の人気を誇っている。CDを出せばオリコンチャート一位は当たりまえ。ライブはいつも満員御礼。チケット即完売。ついこの間の握手界では記録的な大行列が出来たとか出来なかったとか・・・・。でも、この美青年も幼馴染の私に言わせれば「ただの自己中男。かっこつけ魔。超我侭・俺様野郎」よ!
「お前な……もう少しまともな格好ができないのか」
ちなみに今の私の姿は、よれよれのジーンズに、ユニクロのパーカー。お化粧はナッシング。スッピンである。
「うるさい。本当はお洒落しようと頑張ってたのよ!でも、モー子さんが来れないって言うから、お洒落する気も失せちゃったのよ!」
「モー子さん、モー子さんってお前……恋人同士じゃあるまいし」
「恋人同士だったらもっと仲良くできるかしら?」
「ヲイヲイ」 松太郎は呆れ顔で私を見る。
本当にそうだったらいいのにぃ。モー子さん最近忙しくて、全然会えないのよ。モー子さんこと、琴南奏江は私のラブミー部員時代からの友人で、今や自他共に認める実力派人気女優だ。ルックスもさることながら、主役から個性的な脇役までなんでもこなすその演技力、また彼女の仕事に対する熱心さは、業界内でも評判になっている。
そんなに人気のあるモー子さんだから、必然的にお休みも少なくて、ココ最近はろくに電話で話もできなかったのよ!!それで、今日は実に1ヶ月ぶりにプライベートで会えると思ってたのに!それなのに!
「なんでこんないい天気に休暇に、松太郎なんかと一緒にいなきゃいけないのよ〜〜!!」
「お前が、俺様を呼び出したんだろ!てか、あれは脅しだ!犯罪だ!」
私が、先ほど松太郎に送ったメール。至急来タレシ不破殿 サモナクバ貴人ノ世ニモ恥ズカシイ本名ヲバラスデ候。これを呼んだ、松太郎は本名をバラサレチャ大変だとすっ飛んできたのだ。額に汗までかいて。よほど焦ったのだろう。
「いいじゃない、アンタも全国ツアーが終わって暇だったんでしょ?」
「なんで、そんなこと知ってんだ」
「芸能ニュースでやってたわよ」 夕方の5時半すぎから、某番組でやってるヤツ。
「さいですか。ところで、何処行くんだ」
「映画」
「映画ぁ?」
「そ、これ」
前売りチケットを一枚、松太郎に渡す。するとそのチケットを見た松太郎の顔が、苦悶に歪んだ。
「よりによって、敦賀蓮が主演………」
「勉強よ。モー子さんと演技の勉強も兼ねて観にいこうって話してたの」
「俺は演技なんかしねぇ」
「兎に角!見るのよ!本名ばらされたくなかったら大人しくついてらっしゃい、不破松太郎くん?」
「お前……………」
屈辱で顔を赤くする松太郎を尻目に、私は悠々と映画館へと向かって歩き出した。
「やっぱり凄いわ。敦賀さんって」
目の前で美味しそうに焼けるタン塩を見つめながら私が言うと、
「どこが………」
と、松太郎は歯軋りをしながら答えた。
「素直に認めなさいよ」
「誰が……あんなヤツ……」
キムチをつかむお箸が振るえていますよ、松太郎くん。
それにしても、凄かった。映画の内容はもちろん、何より敦賀さんの演技に思わず鳥肌がたってしまった。ある有名なミステリー小説を原作として、映画化したものだったんだけど、あれは原作よりよかったんじゃないか、なんて考えてしまうほどだった。あの人間離れした雰囲気を持つ主人公を、ものの見事に演じきっていた敦賀さん。やっぱり、只者じゃないわ。
「凄いわよ。本当に凄い」
映画が終わってもう1時間は経つけど、まだ興奮が冷めない。尊敬するわ、敦賀蓮。
「なんだよ」
松太郎の眉間に皺がよっている。
「何?」
「なんだよ、お前は。打倒俺様で芸能界入りしたんじゃなかったのか。なんで敦賀蓮の話ばかりしやがる」
「それは………」
確かに私はアンタをギャフンと言わせてやりたかったんだけど………。私がこの目の前にすわって焼肉をつっついている幼馴染に、ゴミのように捨てられて4年。つまり私が芸能界入りを決心して4年。4年か………あっという間だったな。
高校卒業と同時に本格的な芸能活動を始めた私の人気度は、客観的に見てもなかなかのものだとは思う。この前の某有名雑誌での、共感できる女優・タレントランキングではBEST10の中に入ってたし。(その代わり色気の無い女優・タレントランキングでもBEST10入りしてたけど)有難いことにレギュラー番組も何本かも頂いてるし。なかなかだとは思う。この前敦賀さんもそう言ってくれたしね。でもね、敦賀さんに比べると(比べる相手が凄すぎるのかもしれないけど)、やっぱり私なんかたいしたこと無いのよ。もちろん、今の私は松太郎にも及んじゃいない。悔しいけど、それが事実だ。
「どうなんだ、俺様を倒すんじゃなかったのか」
「イヤ、そのツモリだったし、今もそのツモリなんだけど」
タン塩を口に含んだ私を、松太郎が勝気な瞳で射抜く。
あの頃は、アンタに捨てられたのが悔しくて、憎くて、どうしようもなかった。(あの頃の私だったら、今の私みたいに松太郎と仲良く焼肉なんて食べてなかっただろうね)松太郎に復讐するためだけに、芸能界入りを決意して、LME事務所に入って。しばらくは、打倒松太郎に燃えていたけど。
だけど、私は敦賀さんに出会ってしまった。彼の演技を見て、自分も演技をしたいと思った。それからだわ。なんだか、松太郎への復讐に燃えている自分が馬鹿らしく思えてきて、相変らず松太郎に振り回されてる自分が情けなくて。自分の為に何かしたいと思った。それが演技で、しかもその演技の目標・手本となるのが敦賀さんだった。
「今のアンタは、復讐の対象ってよりも目標よ」
「ほう、目標ね」
「同じ芸能人として、アンタから学ぶことは山ほどあるわ。でもね」
この4年間、ミュージシャンとして、TOPに君臨し続けている松太郎も凄いってことは、私だって良くわかってる。
「でも?」
「私は今、スーパーミュージシャンじゃなくて、スーパー役者を目指してるのよ」
アンタは確かに目標のうちの一人だけど、私は別にアンタみたいに歌手になりたいわけじゃない。私が目指しているのは凄い役者さん。
「ていうか、なんだそのスーパーってのは。意味わかんねーよ」
「スーパーってのは文字通り『より優れた』って意味」
「で、スーパー役者とやらを目指してて、それから?」
「役者としては、敦賀さんが最高の目標なの。あの人の演技力の凄さは、アンタもわかったでしょ?」
「なるほどね、役者か………」
なんとなく納得したのか、松太郎は良く焼けたタン塩を黙々と食べている。
「後ね、よくよく考えたらいいこと思いついて」
フフ。これ言ったら松太郎は顔を真っ赤にして怒るんだろうな。
「いい事?」
「アンタは敦賀さんに勝ちたいって思ってるんでしょ?」
「あたりまえだ。俺はいつか必ずヤツを倒すぜ」
松太郎の目にギラギラとした炎が灯る。この前の恋人にしたい男ランキングでまたしても、敦賀さんに勝てなかったのよね、アンタは。
敦賀さんがもちろん一位で、アンタは二位。でも、一位と二位の差が笑えるくらい開いてた。
「だからね、私がアンタより先に敦賀さんを倒しちゃえばいいの」
「は?」
「単純な計算よ。現状を『敦賀蓮>(大なり)松太郎>私』、と見て、私が敦賀さんに勝てば、『私>敦賀さん>松太郎』とまぁ、こんな具合になるわけよ」
「………」
「敦賀さんを倒せば自動的に、アンタも倒せる。一石二鳥でしょ?」
「てめぇ言ってくれるじゃねぇか。俺様をツイデみたいに言いやがって」
やっぱり怒ってるわ。本当に怒りっぽいんだから(私も人のこと言えないけど)。昔から変わらないわよね。あ、お箸折れるわよ、そんなに強く握ったら。
「そう、ツイデ。文句があるなら、今すぐ、彼を倒してみなさい。ま、出来ればの話だけど」
あの人のことだから、相手にもしてくれないんじゃないの?と言ってやったら、松太郎のお肉を焼く手が一瞬止まった。
「どうしたの?」
「イ…………イヤ、ナンデモアリマセン」
嘘おっしゃい。何かあったんでしょ。
「松太郎」
「なんだよ」
平静を装ってるけど、目が泳いでる。何かあったな。
「どうかしたんでしょ?」
「なんのことだ」
「自白しちゃいなさい。さもないと、本名を週刊誌に売り飛ばすわよ」
そう言った瞬間、松太郎の顔がサッと青くなった。使えるわ、この本名をバラスゾ作戦。ああ、快感だ、松太郎イジメ。
「!!!!!!!テメェ!!!」
「笑うんじゃね〜〜〜〜!!畜生!」
お腹を抱えて、大爆笑する私を、松太郎が怒鳴りつける。笑うなってほうが、無理だってば。いや、それにしてもビックリだわ。松太郎が既に、敦賀さんに某テレビ局で喧嘩売っていて、しかも敦賀さんに軽くあしらわれちゃったって!!本当に、相手にされなかったのか、アンタ。
「アレは、俺の人生の汚点BEST5に入るほど屈辱な事件だった……」
松太郎は心底悔しそうに呟いて、ねぎタン塩を食べている。
「あはは、まぁ、頑張ろうね、お互い」
私たちの目標は、芸能界一いい男敦賀蓮、唯一人。
「ケッ。あ、おい、カルビはそこで焼くな」
上カルビを網に乗せようとした私を、松太郎が制止する。
カルビは、こっちエリアで焼け。じゃないとタン塩にカルビのタレがついちまうだろ」
と、私から見て、網の右半分側をタン塩エリア、左半分をカルビエリアと決める幼馴染。松太郎という男は、昔からこうだ。妙なところに几帳面で、こだわりをもっていたりする。
「どっちだっていいじゃない」
男のクセにごちゃごちゃ細かいなぁ。
「よくねぇ!」
「そう言えば、敦賀さんは、そんなこと言わなかったな。」
というか、あの人は食べ物に無頓着すぎる。美味しいものを食べるのは嫌いじゃないけど、強いて食事を取ろうとしないのだ。
「何、お前アイツと焼肉食いに行ったの?」
意外という顔で松太郎が言う。
「三日前」
「三日前!?お前、よくそんな頻繁に焼肉食えるな」
「高級焼肉」
「…………一皿いくら?」
「普通のカルビで一皿2500円」
ゴホっと、飲みかけたビールを喉で詰まらせむせる松太郎。今私たちが焼いている、上カルビ、一皿1200円也。
「美味しかったよ。あれは、焼肉っていうより、薄切りステーキ食べてる感覚だった」
でも、私はやっぱり、こんな感じの普通な焼肉で十分だわ。
ちなみに、総額イクラ食ったんだ?」
「さぁ?敦賀さんの奢りだったから、私は知りません」
「奢ってもらったのか」
「当然よ」
なんで無理やり連れまわされた、いわば被害者の私が加害者の敦賀さんに奢らなきゃいけないの。って、そんな事情松太郎は知らないんだけど。
「松太郎?どうかした?」
突然だんまりし出した、松太郎を見つめる。
「今日は、俺が奢る」
「はぁ?」
いったいどうしたっていうの。熱でもあるのかしら?他の女にはドウだか知らないけど、松太郎が私に奢ってくれるなんて珍しい。
「男のプライドだ」
「男のプライドって………いまさら何を……幼馴染にそんなこと言ってどうすんの」
そりゃ、私は昔アンタに惚れ込んでたけどさ。(人生の汚点の一つだわ……)
「敦賀蓮が奢って、俺が奢らないなんて……!!俺のプライドが許さない!」
プライドというか、唯の見栄っぱりだ。焼肉を奢るか奢らないかで、あの人と張り合ってどうするんですか、と言ってやりたかったけど、奢ってくれると松太郎自ら言うのだ。
まぁ、いいか。無料焼肉万歳!
お腹いっぱい焼肉を食べた後で、デザートの抹茶アイスクリームを堪能している私を、松太郎がジット見つめる。
「何よ、ジロジロ見ないで下さい」
「なんで、お前はそんなに食えるの」 信じらんねぇと、呟く松太郎。
「デザートは別腹」
ケロリと答える私に向かって、松太郎が言った。
「お前さ、芸能界に入ってから、なんていうか………したたかになったよな」
そりゃあね、色々ありましたからね。アンタに裏切られた事件を皮切りに。強くもなるわよ。それに芸能界という世界は、表は華やかだけど、裏はものすごくドロドロしてて強くならなきゃ、とてもじゃないけど生きていけない場所だ。
「ショーちゃんは、性格多少は丸くなったよね」
ショーちゃんなんて言ったのは、何年ぶりだろう。松太郎は、少し驚いた顔をして、それから
「色々あったからな」
と、ため息混じりに呟いた。松太郎も一応苦労はしているようだ。TOPに立ったら立ったで大変なんだろうな、と思う。でも私も早くソコに行きたい。敦賀さんや、松太郎のいるその場所へ。
それにしても、モー子さん以外の人とこうやって、まったりするのもイイかもね。
また一緒に遊びに行こうよって言ったら、松太郎は 「イヤだね。だいたいなんで、俺様がお前と一緒に映画観て、焼肉食べて、しかも俺のおごりなんだ」 と、憮然とした表情で言った。っていうか、奢るって言ったのは自分でしょう。
ちょっとムカついたから、こう言ってやった。
「お黙り、本名ばらすわよ」
その瞬間の松太郎の顔ったら、フフ。
松太郎に復讐までしたいとは、もう思わないけれど、松太郎イジメは当分止められそうにないわ。
(スキップ・ビート!,2003)(2006/01/02改)
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