桜色の扉の向こう。――――彼の秘密の花園で。

一年に一度あるかないかという珍しい現象なのだ、と。彼は感情を押し殺した声で、説明してくれた。
きっと、そうでもしないと、後から後から溢れてくる、この抑えようのない感情に、押し潰れてしまうから。だれよりも繊細で、だれよりもやさしい、この弱虫の魔法使いには、この光景は重過ぎるものなのだろう。それは、つながれた掌が震えていることを見れば、想像に難くなかった。
少女は、なにを言うわけでもなく、夜空を見上げた。――――七色のひかりに溢れた夜空を。
星々が舞い、歌い、ひかりを散らす。
星の子たちの舞いは、たのしそうで。歌声も、うれしそうで。
だけど、空の呪縛から解き放たれた星の子の運命は、とても残酷だ。
ふと、二人の横を飛んでいった一つの星の子が、大地に叩き付けられ、まるでガラスのように砕け散った。その一瞬、子どもたちは、キラリと、一層きれいなひかりを放って、そしてさっと消え去った。
命の鼓動の跡に残るのは、かすかなひかりの残像と、奇妙な静寂。
そこにどうしようもない寂しさを感じてしまうのは、きっとそれを傍観してる自分たちだけなのだ、と。魔法使いの青年は、ぽつりと呟いた。
なにも知らない星の子たちは、ただ一身に自由の身を喜び、踊る。
なにも知らないから、笑える。
なにも知らないから、歌える。
そして、なにもわかっちゃいなかった魔法使いのこどもは、なにも知らない星の子を捕まえてしまったのだ。
なにも知らないままなら、その星の子だって幸せのうちに、その短い生涯を終えることができただろうに。結局、余計な知識を与えられた星の子は悪魔となって、魔法使いのこどもと契約を結んでしまった。
生きるために。
――――その先に、どんな辛い道が続いているかも知らずに。
「きれいね」 少女は言った。
一度。過去に一度だけ、少女はその光景を見た。あのときは、星の子よりも、そのなかに佇む少年のほうにばかり目がいってしまったけれど。
こうやって、改めて見る星の子の舞いは、幻想的で、儚げで、そしてきれいだった。
「カルシファーと契約を結んでから、ぼくは一度もこの夜空を見に来なかったんだよ」
怖かったのだ、と。
なにも知らぬまま、笑いながら消えてしまう星の子を見ていると、そんな彼らになにもしてやれない自分が、いかに無力であるか突きつけられているようで、いやだったのだ、と。
魔法使いは相変わらず、静かな声で語った。
「やさしいのね。あなたは」
やわらかな微笑をうかべて少女は、魔法使いの青年をぎゅっと抱きしめた。
「やさしいわけじゃないさ。自分可愛さに、ぼくはこの光景からも逃げてたんだ」
「でも、今日は逃げなかったじゃないの」
「きみがいてくれたからね」
ふふ、と青年は笑う。
「ねえ、ソフィー……」
「なあに?」
「ありがとう」
なにを突然、とソフィーの笑い声が、辺りに響き。
そして、それにつられるように、星の子たちが一層たのしそうに踊っていた。

 彼の秘密の花園。――――桜色の扉の向こうで。



捏造もはなはだしい。(ハウルの動く城,2004/12/??)(2005/12/31改)