げらげらと笑う悪友に向かって、独逸語の辞書入りの鞄を振り上げる。ぎゃーと叫びながら逃げるそいつを追いかけて、追いついて、捕まえて。そうやって光也と仁は、まるで幼いこどものように、夕日色に染まった帰路を辿るのだ。
「光也、そう拗ねるな」
「拗ねてんじゃねぇよ。怒ってんだ」
「少しからかわれたぐらいで、器量の小さい男だな」
「お前がしつこ過ぎるんだよ!」
そう叫んでから、すたすたと早足でいってしまおうとする光也を、仁は慌てて追いかける。
「光也」
「んだよ」 振り返りもせず、光也はつっけんどんにこたえた。
「僕はお前が好きだよ」
思わず歩みを止めてしまったのは、不覚だった。はたと振り返ってしまったのは、さらに不覚だった。
「こんなこと言ったら、今更何だって、お前は怒るかもしれないけど…」 ふふ、と可笑しそうに、でも何処か切なげに目を細めて仁は言う。
「やっぱりお前は、慶光じゃないんだよな……」
そんなふうにしみじみと言われてしまっては、光也はどうこたえたらよいのかわからない。
言葉に詰まる光也に、仁は今一度言った。 「僕はお前が好きだよ、光也」
(嗚呼、お前って奴は……!!)
くそっと光也は唇を噛み締めて、半ば焼けくそ気味に仁の肩にがしっと腕を回した。
「ほんと…お前って、馬鹿じゃねぇの」
閉じた目の奥―――網膜に焼きついた夕焼けが眩しい。
はは、と軽やかに笑う仁の肩をさらにきつく抱きしめながら。―――俺もお前のことが大好きだよ。心のなかで、精一杯叫んだ。
世界の中心で愛を叫べたら
060304