「ねぇ、慶さんって、みつ君に似てると思わない?」
脈絡のない百合子の言葉に、光也と仁は揃ってごほっと紅茶を噴出した。
「似てるものか! 似てたまるものか! あんな…… あんな ……!!」 と、叫ぶのは仁だ。以前慶に味合わされた耐え難き屈辱の数々を、思い起こしでもしているのだろうか。仁はわなわなと震えている。
「あんな、とか言うンじゃねぇよ」
失礼な奴だな、と眉をひそめる光也だけれど、そんな彼の態度が一層仁の神経を逆撫でするということを、光也は全くもってわかっていない。
「お前はまたそうやって!!」 案の定、仁は頭に血を上らせて抗議した。
「そうやって、何だよ」
「僕を蔑ろにして!!」
「……そりゃ、蔑ろにしたくもなるぜ」
「みつ君、仁」
誰しもが、百合子の笑顔の前にあっては無力に等しい。百合子と付き合いの浅い光也はもちろん、長年の付き合いである仁までもが、おとなしくソファにおさまった。
「で、誰が誰に似てるって?」 米神に指をあてて、仁が言った。
「慶さんと、みつ君」
「俺が?」 そうかな、と光也は唸った。
「あなたというよりも…」 百合子は気持ち首を傾けた。 「どちらかというと、“慶光”のほうかしら」
「どのあたりが?」
「中身が」
「そんなわけあるか!!」
目一杯否定する仁を横目に見つつ、百合子は口元に手を添えて思考を巡らせる。
慶光のことが(色んな意味で)大好きで大好きで大好きでたまらない仁だけれど、慶と名乗る男のことは嫌いらしい(というより、慶と光也が仲良さげなのが、とても気に入らないらしい)。慶光と慶が似ているというのなら、慶光に想いをよせる仁が、慶のことも気に入ったっておかしくないのに。むしろ、そのほうが自然であろうに。
「どうして……そんな……そんなありえないことを考えるんだ、百合子」 嗚呼、考えるのもおぞましい。仁は手で顔を覆いながら、天井を仰いだ。
「何故かしら」
強いて例を挙げるのなら、抑えるところは憎らしいくらいにきっちり抑え、笑顔で人を煙に巻き、いとも容易く絶対侵入禁止の線を人と人の間に引いてしまえる話術だろうか。
うん、やっぱり似てるわ。百合子は思う。
醸し出す雰囲気こそ違えども(少なくとも、百合子の弟である慶光は、用心棒なんていう柄ではない)、言葉遣いが違えども、慶は慶光に似ている。光也に慶光と似たところがあるのと同じように。
ちらりと光也を見やって、百合子は、あら?と目を丸くした。 「何を笑っているの、みつ君」
「そうだ、みつ。どうしたってお前、そんな嬉しそうに笑っているんだ」
「え。いや……何となく」


060203