予期する満開



 世界の危機というまさにこの時期に、視線の先でご機嫌そうにふらっふら揺れる尻尾が、オニオンナイトの称号を持つこどもには気に食わないらしい。どうして、と問えば、なんとなく、とこどもはぶすっと頬を膨らませてこたえた。
 だって、なんか、こどもっぽいじゃん、と。
「ジタンが?」
 スコールが問うと、こどもは頷いた。
「うん、いっつもちょこまかちょこまか落ち着きないし」
 そういうあんたも大概落ち着きがないけどな、とは言わないでおいた。言ったら、きっとこのこどもは憤死しかねないほどの勢いで怒るであろうと思ったからだ。オニオンナイトは大のおとなたちが舌を巻くほど頭の良いこどもだけれど(少なくとも同じ頃合の自分はもっともっと甘ったれで、義姉の後をちょろちょろ付いてまわるだけどの大の泣き虫だった、とスコールは記憶している)、こどもはやっぱりこどもだった。
「あいつのことが嫌いか?」
「好きじゃない」
 これは所謂ドーゾク嫌悪ってやつか、とスコールは無表情の下で考えた。
「イイヤツだよ、ジタンは。少なくとも俺よりは」
「スコールはかっこういいよ、おとなだもん」
 スコールは噴き出したい衝動を必死で堪えて、しかめっ面を辛うじて維持した。いやはや、この世界とは別の次元にいる仲間たちには散々こどもだとこき下ろされてきた自分がおとなだとは、世も末だ。なるほど、世界はたしかに危ういところまで来ている。
「あのな、俺はちっともおとなじゃないんだよ」
 自分がおとなでないことを受け入れられるくらいにはこどもではなくなった。
「そうかな」
「ジタンのほうがよっぽどおとなだと俺は思う」
「そうかなあ? ジタンはエロ話しかしないんだもん」
「……」
(こども相手に何をしとるんだ、あいつは!)
 スコールの殺気に満ちた不穏な視線に気づいたらしいジタンが振り返る。ジタンは尻尾を一振りしてから、何を思ったかぴょんぴょんと跳ねてこちらに近づいてきた。にやにやと笑うその顔に、いやーな感じがしてスコールはオニオンナイトの手を引いて、すたこらととんずらすることを決めた。どうせ猥談をふっかけられて、オニオンナイトといっしょくたにからかわれるに決まっているのだから。

ディシディアFF|title by ダボスへ|090113