彼の話が要領をえないのは、きっと高熱で思考回路がいかれているせい。そこが母性本能を擽るとか、可愛いとかはさておき。朦朧とした意識のなかにいる彼が紡ぐ言葉に、耳を傾ければ。
「ごめん……」
「スコール?」
「ごめん」
彼が一通りの話を終えて、さすがのわたしも言葉を無くさざるをえなくて(いや、だって、事が事だし……)、そしたら沈黙に耐えられなかったように、スコールは謝りだした。何度も、何度も。繰り返し、繰り返し。

「ごめん」
なんでかな。母性本能なんてどっかに飛んでいっちゃったわ。
なんか、ものすごく。むかつく。
いったいどういう了見なのかしら、この男は。あたしを馬鹿にしてるのか。
高熱に魘されている病人に対する態度じゃないなんて百も承知。保険医のカドワキ先生にはしっかり休ませるように言われた。 だけど、それがなんだ。それが、どうした。この独り善がりな、すっ呆けた男には、こうでもしないと効果はないと思う。たまにはそのお綺麗なお顔に、傷のひとつでも増やしてしんぜよう。
「てい!」
頬を引っぱたいて。そのまま、腕をねじり上げて。背後に回りこんで。まずは、ヘッドロック。ぐへ、と奇声が聞こえた。
「な、なにすっ。痛! 痛い、放せ! リノっ」
お次は、スコールに習った護身術の改良版。首を足で挟めば……
「やめい!」
息も出来ないほどに苦しいでしょう? しかも、これ、抜け出すのは相当難しい技なのよ、スコール=レオンハートくん。熱で体が思うように動かないあなたに何が出来るかしら?
ギブ、ギブとベッドを叩く彼を解放してやれば、半ば放心状態の生きた伝説のSeeD。ざまーみろ。
荒い息の彼の頬を思いっきり抓って……
「リノア! いい加減に……」
「怒るな! 怒りたいのは、あたしの方よ!」
思い切り怒鳴りつけた。

あたしは別に会議の結果についてどうこう怒ってるわけじゃない。ガーデンを離れるのは寂しいけど、悔しいけど、別に怒ってなんかいない。
ましてやスコールに謝られたいとも思わない。なのに、この人ってば、さっきから 「ごめん」 だの 「すまない」 だのと、そればっかし。 人を馬鹿にするのも大概にして欲しい。
「なんであなたが謝るの……」
「リノ、」
「あたしは別にあなたを責める気なんてないわ」
そう、責めるなんてお門違いだ。
「この一年。ただでさえ忙しいあなたが、あたしのために世界中を飛び回ってくれてたのを知ってるわ。で、帰ってくるたびに、その鉄面皮の下に、疲れた顔を隠してたのも知ってる。知ってるのよ。あたしだって、知ってたんだから」
そりゃ、あたしは皆みたいに頭はよくはないけど、だけどきちんとわかってたのよ。知ってて知らないふりしてたのよ。あなたが何も言わないから。プライドの高いあなたのことだから、弱ってるところを見られたくないんだろうって。そうやって自分を納得させながら、黙ってたのよ。寂しかったのよ。あたしのせいで、あなたが疲れてるとわかってたから、余計に。

「わかってる。わかってるのよ、あなたはものすごく頑張ってるけどね、なんでそう……」
あ、しまった、感情が高ぶりすぎて、涙声に……。
「リノ……」
だめだ。泣くな、泣くな、あたし。泣いたって、叫んだって、何にもならない。それにこういうときに、泣くのは卑怯だ。
「なんでそう、いちいち独り相撲なのよ……」
目を見開くスコールに、氷水につけてギンギンに冷やしておいたタオルをぺいっと投げつけて。
「少しは頭を冷やしたらどう!!」
途方にくれちゃったようなそんな情けない顔をしている恋人を部屋に残して、あたしは一人、女子寮に戻った。

あたしも、頭を冷やさなきゃ。
あーあ。スコールのばかちん。
あたしは。
あたしは、ただ、彼と対等にいたかっただけだ。お人形さんみたいに、守られたかったわけじゃない。

ドントクライ ヘイベイベー! 071211