「待って、スコール!」
「うあっ!!」
背中から腕を回そうとしたんだろうけどな。そんでもって俺を引きとめようとしたんだろうけどな、お姉ちゃん。でも、これじゃあまるでタックルだよ。
お姉ちゃんがあんまり勢いよく飛び掛ってきたものだから、俺は受身さえとれずに、お姉ちゃんもろとも床に倒れこんだ。ガーデンの教官が見たら情けなさのあまり泣きだすであろうほどに、不恰好な、でもいっそ清々しいまでに見事な大の字で。
(い……イテ……)
細身とは言え大の大人と固い床にプレスされたとなれば、鍛えられた身体も痛さのあまり悲鳴をあげた。
「スコール! エル!」
妙な足取りで駆け寄ってくるのは、――ラグナ、あんたか。
「だだだだ大丈夫か……!? あ! いいいいい痛たたたた!」
「ラグナくん、君はとりあえずつったその足を治したらどうだい?」
常に冷静さを欠かすことの無い大統領筆頭補佐官のツッコミは、今日も今日とて的確だ。それにくらべ、大統領様のほうのなんて情けないこと。例によって例の如く一番肝心なところで脚をつって呻いて、それを見る俺は情けなくて涙も出やしない。
「ご、ごめ……。スコール大丈夫だった? ごめんね?」
お姉ちゃん。人の背中に乗っかったままで、しかも人の首根っこをしっかり抑えながら言う台詞とは、とてもじゃねぇけど思えないんだけども。声だけは涙交じりに、切羽詰っているってのがよ……。
やめろよ、これじゃあまるで俺が悪者みたいじゃねぇか。
「……」
俺は無言で無理やり上半身を起こす。お姉ちゃんは申し訳程度に俺の背中の上から退いてくれたけど、相変わらず首根っこは掴まれたままだ。いっそ、掴まれたジャケットを脱いで、シャツ一枚ですたこら逃走してやろうか。
「スコール、逃げないで。ちゃんとラグナの話を聞いてあげて」
お願いだから。――そう言って、お姉ちゃんはしゃくりあげるんだ。
「お願い。お願いよ。ラグナの話を聞いてあげて。ラグナとちゃんと話をして」
ラグナラグナラグナ……。
あ、なんか今プッツンきた。
ラグナラグナラグナ。嗚呼、そうかい。ラグナかい。ラグナかよ。ラグナがどうしたよ。
「大丈夫か?」
妙な足取りが俺に近づいてくる。足はまだつったままらしい。とっとと治せばいいものを、どうしてそんな無理して歩いてくる?
「大丈夫か? スコール?」
やめろ。なんだってそんな声で俺を呼んだりするんだ。俺はそんな声、ちっとも聞きたくなんかない。
今更何だよ。何なんだよ。ふざけるのも大概にしろよ。
今更。
今更――父親面すんな。
「スコール、お願い。お願いよ。ラグナとちゃんと話を……」
「うるせぇ!!」
はっとお姉ちゃんが息を呑む。俺が、お姉ちゃんにこんなに乱暴な言葉を使ったのは、きっと生まれてはじめてだ。
「スコール! エルにあたるな!」
「てめぇは黙ってろ! うるせぇんだよっ」
ラグナ、あんたが黙ってれば俺だってこんな、お姉ちゃんにあたるなんてことしない。したくもなかった。
「ラグナラグナラグナばっかり言って。何だよ。何なんだよ……!! 突然、父親だとか言われたってわかんねぇよ! ふざけんな!」
エルオーネもラグナも、キロスもウォードも皆、黙った。俺を気遣うような、悲しいような、そんな目で見る。まるでこどもを哀れむように。
次の瞬間、俺はお姉ちゃんの手を振り切って、走り出していた。
「スコール待ってくれっ」
馬鹿ヤロぉ! ホコホコ付いてくんじゃねぇよ!
「来んじゃねぇ!……あ?……っ!」
(い……いってぇ……?)
「スコール!?」
廊下を全力失踪する途中で、いきなり片足のふくらはぎにピキーンと痛みが走ったけれど、俺は兎に角構わず走り続けた。
畜生、何でこんな大事なときに、足なんかつるんだ。
エスタ大統領官邸の廊下を、走り抜ける男が、ふたり。ふたりともそれぞれの片足を引きずりながら。情けねぇよ……ちくしょー!
ハイウェイを駆ける 070318