「柚木が最終セレクションで演奏した曲でいいんじゃない?」
「なんで柚木先輩なんですか、火原先輩!」
「え、ええええ? なんでって……」
「いやいやいや、だって柚木先輩が一応主役だし? そこは突っ込むところじゃねえだろ、加地」
「香穂さんだって主役だ!」
「妙なところでかっかなさんな」
「妙じゃないよ、土浦くん。これはとても大事な……」
「えー……っと、柚木先輩の曲って、なん……でした……」
「……?」
「……すぴー」
「ちょ、こんなところで寝ないで志水くん。楽譜が皺になるから、ああ、ああ、そこにはコーヒーがあ」
「王崎先輩、志水はもう放置して大丈夫です。ボランティア精神もたまには休まないと」
「大事なことなんだよ、土浦くん! 聞いてるぅ!?」
「わぁーかったわぁーかった。で、柚木先輩って何演奏してたっけ?」
「忘れた」
「馬鹿野郎。ちったあ思い出す努力をしろ、月森」
「もう10年前のことだ」
「脳みそ使え脳みそ」
「じゃあ君が思い出してみろ、その海綿みたいな脳みそで」
「んだと、こらあ!」
「やめなさいって、あんたたち。いいオトナが揃いも揃って、大人気ない」
「おまえは老け過ぎてんだよ、学生さんの分際で」
「あーんだとう?」
「衛藤くんも土浦くんも落ち着いてぇえええ」
「火原くんも落ち着こうか。さあ、志水くんも起きようね。皆で柚木くんと日野さんの結婚式でアンサンブルやろうって君が言い出したんだよ?」
「金沢先生あたりに連絡をとれば、あのときのコンクールの演目の資料が残ってるんじゃないですかね」
「ああ、僕も香穂さんのコンクール演奏を生で聴きたかったなあ。とっても可愛かったんだろうなあ。花嫁姿の香穂さんもちょう可愛いだろうなあ。あーあーいいなあ」
「人妻に手ぇださないようにね、加地さん」
「出さないよ、衛藤くんみたいに堪え性がないわけじゃないし」
「どういう意味……」
「――はーいはいはいはい。で、どうしようか、皆。そろそろ真面目に考えようか。僕、あと15分くらいでボランティアに行かなきゃいけないのね」
「……はい」
「……うーっす」
「……すみませんでした」
「えーっと今いるのが、ヴァイオリンが3人、ヴィオラが1人、チェロが1人、ピアノとトランペットも1人ずつ」
「冬海さんも参加したいって連絡がきましたー」
「はいよ、クラリネット追加ー」
「バランスも何もあったもんじゃないなあ、この面子。大丈夫なの?」
「んじゃ、衛藤、おまえが抜けるか」
「ひでええ、あんた、さっきからひでえよ、土浦さん!」
「楽譜をてきとうに編集すればなんとかいけるんじゃない? 志水くんがこのあたりは得意だし」
「志水、おきてるか?」
「やります」
「おお、志水にしちゃ、はきはきした返答だ」
「で、曲は?」
「きゃんゆーせれぶれいと?」
「却下」
「ねえよ」
「ないっすないっす、火原先輩」
「ひどっ」
「てんとう虫のサンバは?」
「それでいいんじゃないか」
「ええ、ちょっと、俺、月森さんの許容ポイントが理解できないんだけどー」
「ありゃ、投げやりになってるだけだ。真に受けちゃいけねえよ、衛藤」
「――あと、12分」
「さ、さ、さあ、真面目に考えようか!」
「イエッサー」
「アイアイサー」
「妙な曲にしたら、柚木先輩はぜったいに切れるだろうし」
「こえええ」
「俺はまだ死にたくない」
「そう? 笑って許してくれるよ、柚木なら」
「いやいやいや、火原先輩、あの人は怒ります」
「――11分」
「で、で、でどうする?」
「愛の挨拶はどうだろう」
「ありきたり?」
「んーいいんじゃないか」
「悪くない」
「スタンダードってのもいいもんだよね」
「……」
「きまり!」
「うし!」
ラブ☆ラブ☆ラブのご挨拶 090320