ちょっと変わった恋の話



「ショーちゃんそれ虫さされ?」
うあバカおま……そんな純真無垢(そう)なお顔でなんてことを
長男は慌てて妹の口を塞いで叫ぶ 「バカヤロウ!」 長男おまえはいい子だ出来た子だ
で おまえらのかぁちゃんは? かぁちゃんは……おおおお怒ってんな
「松太郎? どういうことかしら?」 ごごごごめんなさい

外しちゃ駄目よってそんなおっかねぇ笑顔で 首筋にキティちゃんの絆創膏
これじゃとんだ羞恥ナンタラ オレにはそういう趣味はないんだけども

こどもの教育上よくないっておまえの気持ちはわかる
だけど少なくともおまえんとこの長女のさっきのアレは確信犯だし(長女は両親顔負けの演技派だからな)
長男はもう立派な男だぜ 同じクラスのミキちゃんだっけ? ふふこれはオフレコだけどな

「ママは過保護なのよ てゆか古いの」
絆創膏はそのままに 折角遊びに来たオレは早々にあいつに追い出され
そして何故かエレベーターのなかであいつの娘と二人っきり 下まで送ってくれるんだとさ
「親としちゃぁ当然の振る舞いだ」
「でもわたしもう中学生よ?」
「こどもじゃないってか?」 「うん」 自分がこどもだということにさえ気付けないおまえはやっぱりこどもだ
「そしたらママが腰抜かすようなこと言うんじゃないよ
 親をびっくりさせちゃ駄目ってことぐらいわかるだろう こどもじゃないんだから
 かわいそうにあいつってばあんなに慌てちまって」
「わたしが悪いんじゃないよ ショーちゃんがいけないのよ不潔」
「ふけ……! そりゃあおまえ おとなの男に大変失礼な……おまえの兄貴だってなぁ」
「知ってる ミキちゃん」 あれ知ってんの 「ママは知らないけど」
「パパは?」 「知ってるよ お兄ちゃんがミキちゃんのこと本気で好きならいいんだって」
「そうか」 本気で好きなら……か

エレベーターが開いて マンションの外までこいつは見送ってくれるつもりらしい
「ショーちゃん」 エレベーターから出たところでこいつが立ち止まって
「どした」 オレは振り返って エレベーターは閉まる
「愛に年齢は関係あると思う?」
「なんだおまえ、好きな奴でもいるのか」
「いるよ」 父親似の目がオレを睨んでる 挑むように。
「恋愛相談は同性がお勧め 奏江さんとか」 少なくともおまえらのかぁちゃんよりは な
「本気で好きなの」
――――やめとけ 悪いこたぁ言わねぇよ やめておけ
「………おまえ今年いくつだっけ?」
「愛に年齢は関係あるの?」 オレの腕をつかんで 逃げるなって目でオレを見上げる
「ねぇよ」 ここであると言えばこいつは引き下がるかもしれないし 逆にやけを起こすかもしれない
どっちにしても「あるよ」と言えないのはオレがこいつに嘘をつきたくないからだ
――――オレはおまえがかわいいよ かわいくてたまらない
「だけどそれは心の話 体は駄目
 中学生かそこらはな体がまだ出来上がってねぇんだ ちょっと胸が出てこようがまだまだ発展途上
 本気でそいつのことが好きならそれでいいよ
 だけどセックスはまだやめとけ 体に負担になるだけでいいことなんてない
 相手が同じ中学生なら丁度色々とお盛んな年頃だけどな おまえはしっかり拒んどけ
 で、 そんくらいで臍を曲げるようなケツの穴の小せぇ男なら止めとけよ」
おとなはこうやってマトモなことを言うふりしてその場を凌ごうとする オレはなんてずるいおとなだ
「うんわかった セッ……えっとキス以上のことはしない」
「そうしておけ じゃオレは」
帰るから……って……
「こら、放しなさい」
「本気なんだよ」
「そりゃぁおまえ 告白は本人に」
――――やめておけ
「ショーちゃん!!」
――――とりあえずこんなだらしない男は……
「わたしは本気です」 なんで丁寧語
「そうなんですか」 オレまで
ごぼうみたいに細い腕がオレの首筋に伸びてきて キティちゃんの絆創膏を剥がす
「ありがとうな じゃ本当にオレ帰るわ お兄ちゃんとママとパパによろしく言っておいて……」
え? あ……? 首をがっちり抑えつけられて
やめ……
体を引き剥がそうとして掴んだ肩があまりにも細くてマジでびびった
「ふふキスマーク」
ついてんのか つけたのかオレの首に 首じゃぁオレには見えねぇけどよ
「事前練習した甲斐があったなぁなかなか難しいのよねぇ」
「れ練習?」 誰に? 誰と?
「これ新しい絆創膏 はいつけてあげる」
「ササンキュー」 オレ何でお礼なんか言ってるの 「……っておいこりゃぁ」
「セーラームーン」
「馬鹿、やめ……! は、はるな!」
「動いちゃ駄目! 今度は口にするよ!!」
そんな…って な何を?? 何をするっていうんですかお嬢さん
「はい 剥がしちゃ駄目だよ」
「お……おい」
さっさとエレベーターに乗り込んでバイバイと手を振るあいつ

オレは
オレは
情けねぇけど 本当に情けねぇけど その場に突っ立ってることしかできなくて

――――絆創膏の上から触れたそこは火傷するんじゃないかってくらい熱かった


(スキップ・ビート!,2005/12/18)(2006/01/03改)